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時の流れる音 Time Flies 
2010年
05' 04''、カラー, ステレオ, 言語:日本語
コンセプト・編集:GUP-py

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ビデオテキスト

(画面は黒1色。食器を洗う音)

男:最近、時間が経つのが早いな。

女:そう? 気がつきませんでしたわ、忙しかったものですから。(掃除機をかけ始める。掃除機が遠くに行ったり近くに来たりする音)

男:いやいや、どんどん早くなって行く。お前には分からないのか。もう、ついて、いけ…(ハアハアと息切れ)…ない。……昔のようにはいかないよなあ、追いかけても追いかけても、向こうの方が一枚上手、距離が広がる一方だ。(息切れ)こちらがやっとの思いでスピードを上げると、向こうは倍の早さになる。これでもかつては韋駄天の異名をとったんだぜ。

女:(上の空で相づち)はあ、そうでしたっけねえ。

男:……ふう、……ついさっきまで青春を謳歌していたんだがな。

女:(遠くから)そうですわね。

男:いやはや……(ハアハア)、しかし、あんまり走り続けるのもかなわんな。……かと言って、ちょっと立ち止まって休憩するにしても、立ちっぱなしはかえって疲れる。

女:(近くから)そんなところに立ってらしたら邪魔ですわ。……これ、ちょっと持っててくださらない?

男:おやすいご用だ。……わっ、な、なんだ? ばかに重いじゃないか。身体が床にめりこみそうだ。お前こんなものどこから持って来たんだ。……畜生、もう身動きがとれないぞ。おいこら。

女:(遠くの方から大声を張り上げて)何ですって? 何か、おっしゃいましたかあ?

男:いいから、ちょっと来い。

女:はァい。……(しばらくして、今度は近くから)はい、何ですって?

男:聞こえないのか、お前には。

女:(いぶがしげに)え?

男:聞こえないわけがないだろう、ものすごい早さで過ぎ去る、時間のこの音が。(しばらく間)……おおーい、待ってくれーい(声の最後のほうがエコー、風がビュービューいう音が重なる)

女:あらいやだ、洗濯物とりこまなくちゃ飛ばされちゃう。お天気がいつの間にか悪くなってたのね。

男:悪いのはお前の耳だ!

女:耳もいつの間にか遠くなっていたのね。何もどならなくたって。(風の音がどんどん強くなり、ジェット機のような轟音になる)
あなーたーああああ!!! 聞こえますかああ?
(返答なし、強風の音のみ)
あら、どこ行っちゃったのかしら。こう暗くちゃ見えないわ。いつになったらお天気がよくなるんでしょう。もうずっとこのまんま。この国にかつて太陽の光が届いたことってあったのかしら。そういえば、洗濯物を干しに出たのはいつのことだったかしらねえ。

(風の音はどんどん強くなり、声が聞こえなくなる。しばらく風の音のみが続く)


* * *


(突然静寂、風の残響音が少々こだまするがすぐに消える。短い静寂の後、それまで黒1色だった画面に突然ビーチの映像が映り、子供たちの笑い声が響く)
(真夏の海岸の映像:ビーチバレーボールに興ずる若者ら、はしゃぐ子供たち、光る波、白い砂)

(水着姿の若い女性)
女:もう、ちょっと目を離すとすぐ若い女の子ばっかり見て。あなた、ちょっと、聞いてますか。聞こえないふりなんかしてもダメですよ。あなた、若い頃の思い出にばっかり浸っていても、時間の流れには逆らえませんからね。(声が次第にフェードアウト)都合が悪くなるとすぐ聞こえないふりするのは分かっているんですよ。いくらご自分では若いつもりでも、あの娘たちにはてんで相手にしてもらえませんからね……。

(画面には海岸で楽しむ人々が次々に映し出される。カメラがスローでズームイン、人物がぼやけてゆき、代わって遠景の沖の水の流れに徐々にピントがあってゆく)

(画面中央に文字:時間は、海岸の砂ほどたくさんある。)


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